kawl.のこと
こんにちは。
いきなりですがブログをご覧の皆様に
ご紹介したいものが御座います。
当店のお客様でもあり、個人的に執筆活動をされてる「ハナレ クミ」さんに
”kawl.のこと"という
コラム記事を書いていただきました。
すごく情緒的な内容で書いて下さいました。
せっかくですのでご紹介いたします。
少々長いですが、是非一読くださいませ。
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kawl.のこと
“松香る 信夫の山もと 花開く 我ら若人”
これは、わたしが通っていた中学校校歌の一節だ。歌詞の通り、その場所は、福島市街地に鎮座する信夫山の中腹にある。
英語の授業で、初めて出会った外国人歌手がビートルズだった。彼らが歌うイエスタデイを和訳するため、繰り返し聞いたのが懐かしい。
県立美術館・図書館脇の遊歩道を通学路としていた。友人とふざけ合い、憧れの先輩の背を見ながら、四季折々の美しい風景とともに歩いた日々は、思い返せば贅沢なことだったとよく分かる。
その遊歩道から、飯坂電車を越えた先にある道路を飯坂街道と呼ぶ。10キロほど北へ真っすぐ進むと、飯坂温泉にたどり着く。松尾芭蕉も立ち寄ったとされる歴史ある温泉地だ。その街道沿い、美術館にほど近い場所にkawl.はある。
kawl.というお店は、店主がセレクトした古着を扱う服屋だ。メンズ・レディースを問わず、アクセサリーや靴も扱っている。自動ドアを開けると、あの古着屋独特の香りと、店主がセレクトしたディフューザーの香りが一緒に鼻腔をくすぐる。混ざっても決して嫌な気がしない落ち着く香りで、ああ、kawl.に来たな、と思うこの瞬間がわたしは特に好きである。
店主の鈴木翔太郎さんは、わたしと1歳違いの平成生まれ。大手衣料店に長年勤め、多くの品々を鑑定してきたという。売り場にある気になった服について聞くと、その服のいいところ、少しだけいまいちなところなど明け透けに教えてくれる。陳列された品物はSaint JamesやLevi’sなどシンプルな定番に加え、イギリス軍やイタリア軍のデットストック、アフリカンバティックと呼ばれている目の覚めるようなカラフルなものまで、店内にセンスよく置いてあり、宝探しのような気分になる。
買い付けだけではなく、個人の買い取りも行っているため、着なくなった服を何着か売却したことがある。売り場の小さな立て札に、見過ごしてしまいそうなほど小さな文字で、「あなたが服を売るときに、どんな思いで着ていたのか、買ったときの気持ちなど、可能であれば聞かせて下さい。」と書いてあった。
服は箪笥に入れておくだけでは意味がない。それを着てうきうきしたり、色んなところに行ったり、時には醤油をこぼしてシミがつく。たくさん着て、たくさん洗って、なんとなく色落ちして、歴史が生まれるのだなと思う。古着はいろんな人の想いがある。良いことも、悪いことも知っている。服を心とともに売る、なんて書いたら胡散臭い文句かもしれないが、鈴木さんはそれを嫌みなくさらりとできてしまう人だ。服以外の話をすることも多く、気さくで、けらけらと笑う。大きな手で、ミシンも器用に扱って古着もリメイクしてしまう。
鈴木さんとわたしの初対面はコーヒー屋でのことで、わたしが使うリュックサックを見て、「それどこで買ったんですか?俺もめちゃくちゃ欲しかったのに、買えなかったんですよ!」と言われたのが最初だった。心底、服が好きな男の子なんだな、という印象はこれからずっと変わらないだろう。
先日、kawl.に行ったとき、若かりしビートルズが闊歩するTシャツが目に飛び込んできた。黒地に白プリントの普通のTシャツで、だいぶ着古されている。それを見たとき、中学生の頃の記憶が脳内を駆け巡った。リスニングの授業で使ったテープレコーダー、紺色のセーラー服、プリクラを貼り付けた缶ペン、隠れてまわした交換日記。色鮮やかに、一瞬で思い出した。
Yesterday,All my troubles seemed so far away
すべてのトラブルなんて、大人になるなんて、全部全部、遠い未来のようだった、そんな日々のこと。
ビートルズはあれから何度も聞いているのになんで今こんなこと思い出したのだろう、と思ったが、答えは簡単、ここは森合である。小中高を過ごした土地。走馬灯が流れるのも当然だ。
そのTシャツはかなり大きめなサイズではあったが、この夏、どうしても着たいと思った。どんな風に着ようか、前の持ち主はイエスタデイを聞いていたのか。考えるとたくさんわくわくする。嬉しい気持ちと、懐かしい気持ちで、Tシャツを大切に抱え店を後にした。
kawl.は、間もなく開店してから1年が経つ。平成生まれの我ら若人が、森合の地で花開き続けますように、と祈らずにはいられなかった。
文:ハナレ クミ
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ハナレ クミさんありがとうございます。
言葉は偉大です。
風景や世界、読む人の心に届くような言葉を文字に起こすことは
容易ではありません。
彼女の一つ一つの言葉のチョイスに心から敬意を。
kawl.
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